インフルエンザ(新型インフルエンザを含む)について ─ 知っておきたいこと ―

インフルエンザウイルスの種類と流行について教えてください。
インフルエンザウイルスにはA,B,Cの3型がありますが、流行するのはA型とB型です。 A型には2つの亜型(Aソ連型A香港型)があるので、この2つにB型を加えた3種類のウイルスが交互に、 あるいは同時に、主に冬に流行を繰り返しています。2009年から,従来のAソ連型は突然変異で生まれた新型のAソ連型にとって代わられました。
人間は,初めて出会うウイルスには必ず感染してしまいますが、 そのウイルスの記憶は一生体の中に残るため、同じウイルスには二度と感染しません。 これを終生免疫といいます。ところが、インフルエンザウイルスは常にそのかたち(表面抗原)を変化させているため、 過去の感染によって獲得した免疫が必ずしも有効であるとはいえません。そのため、インフルエンザには一生のうちに何度も反復して感染します。
A型の2亜型もB型も互いに交差免疫がないので、1シ−ズンにこれら3型の混合流行があると1シ−ズンに3回インフルエンザに感染する場合もあり得ます。
インフルエンザウイルスは低温低湿を好み、潜伏期間が1〜4日と他のウイルス感染症に比して短いのが特徴です。 そのため、日本では冬に爆発的で短期間の流行がみられることが多いのですが、春や夏にも小規模な流行がみられることもあります。 タイなどの熱帯地方では、1年中インフルエンザの小規模な流行がみられています。
インフルエンザはどのような症状でしょうか?
他の風邪に比べ、発熱のほか頭痛、全身倦怠感、筋関節痛などの全身症状がより顕著であることが特徴です。 約38〜40℃の熱が2〜5日ほど続き、熱が下がり始めると咳、鼻汁などが目立つようになります。 解熱してからさらに3日間は他人へ感染する可能性があるので、注意が必要です。
合併症としては、熱性けいれん中耳炎、肺炎などがあります。 また、忘れてはならない合併症に脳炎脳症があります。 毎年数十人以上の小児がインフルエンザで死亡していますが、その多くが脳炎・脳症によるものです。
脳症の起こるメカニズムは未だ解明されていませんが、 インフルエンザが馬鹿にしてはいけない病気であることは確かです。
インフルエンザの治療は?
咳、鼻汁など種々の症状に対しては対症療法を行います。 熱に対しては大人や年長児には解熱剤を使用することがありますが、年少児や幼児には原則として使用しません。
発熱時には体の免疫力が増強されており、ウイルスや細菌をやっつけるのに都合のよい状態になっています。 また、年齢の小さい小児ほど熱に強く、解熱剤を使って熱を下げることは意味がないだけでなく、 免疫力を低下させ病気を長引かせる原因になります。 特にインフルエンザにおいては、解熱剤の使用が脳炎・脳症の合併に関与していることが知られています。
タミフルリレンザといった抗ウイルス剤は、発症してから48時間以内に使い始めれば約1日で解熱し始め、 発熱期間が短縮できます。タミフルを服用した小児が高いところから飛び降りたという報道が2007年になされましたが、 その後の調査で、タミフルを服用したグル−プと服用しなかったグル−プ間で、異常行動のみられる頻度に差がないことが判明しました。 異常行動のほとんどが、インフルエンザ自体による症状であると考えられています。
インフルエンザの予防はどうすればいいでしょう?
インフルエンザウイルスに接触しない方法や、ウイルス自体の感染力を低下させる方法を考えてみましょう。
飛沫感染が、インフルエンザウイルスの主な感染ル−トです。 周囲の人にウイルスをまき散らさないためにも、他人のしぶきを吸い込まないためにもマスクはとても有効です。 同時に、無駄な外出を控えて人混みを避け、ウイルスに接触する機会を減らしましょう。
外出後は、手や喉についたウイルスを洗い流すためにうがい、手洗いを行いましょう。
低温・低湿を好むウイルスですから、加湿器などで部屋の湿度を上げましょう。
体の抵抗力を保つために充分な睡眠と、バランスのよい食事を心がけましょう。
積極的な予防法として、インフルエンザワクチンの接種があります。 小児の接種は2〜4週間間隔で2回行いますが、2回目の接種を遅くとも12月前半までに受けていただくことをお勧めします。 通常インフルエンザの流行は1月下旬頃からですが、2007年のように12月に流行し始めることもあるからです。 ワクチンの効果は約6ヶ月間続きます
ワクチンを接種してもインフルエンザにかかることがありますが、 症状が軽くなることも知られていますので、うまく利用すべき手段の1つです。
「インフルエンザかな?」と思ったらどうしたらいいでしょう?
インフルエンザの診断と治療は1分1秒を争う必要はありません。鼻水や鼻・喉の粘膜を使って、 短時間でインフルエンザかどうかを診断する便利な検査が行われますが,あまり早く受診した場合, 検査をしても陽性に出ないことがあります。余裕があれば、熱が出始めてから8時間以上たってから受診していただくと, 正確な診断ができる確率が高くなります。 夜中や日曜日に発症しても,余裕があればあわてずに一晩様子を見て翌日受診してください。 治療においても、タミフルやリレンザといった抗ウイルス剤は、発症後48時間以内であれば充分効果が期待できます。
インフルエンザに限らず、熱が出たというだけで夜中に救急病院を受診するのはやめましょう。 いらない解熱剤や抗生物質をもらうだけで何の意味もありません。子どもも疲れるし、医療費の無駄遣いです。 そして何よりも、勤務小児科医の負担が増えることになります。 私もそうでしたが、前日も1日働き、その夜も一睡もできず、 さらに翌日の当直明けも夜まで通常の業務があるのが普通です(本当に異常な現状です!)。 若かったから何とかやっていましたが、できれば少しでも激務の小児科医を休ませてあげてください。 本当の急患は20人に1人です。 必要のない夜間の受診のために小児科医が疲れ果ててどんどん病院を辞めていくことに、歯止めをかけましょう。
たとえ41℃の熱があっても意識が正常であればあわてずに、翌日受診してください。
夜中でもあわてなくてはいけないのは、意識がない、けいれんが10〜20分以上続く、 またはけいれんを繰り返すようなときです。脳炎・脳症の可能性があります。
5分以内におさまり、その後意識が回復した場合は、ほとんどが経過のよい熱性けいれんです。 以前にも熱性けいれんを起こしたことがあり、冷静に判断できる場合は、夜中にあわてる必要はありません。 しかし、熱性けいれんか脳症かを見極めるのは難しい場合もあります。迷ったら速やかに小児科を受診してください。