発熱について
こどもはよく熱をだします。熱の原因として最も多いのは急性咽頭炎(風邪)ですが,他にもいろいろな原因があります。
ここでは,熱が出る理由と,熱が出たときの対処法を中心に,発熱についてご説明します。
熱はなぜ出るのか?
ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入すると,さまざまな免疫反応が起こります。その結果,プロスタグランディンE2 という物質が産生され,体温を上昇させます。体温が上昇すると生体の免疫系は活性化され,防御反応が高まります。
つまり熱が出ている方が,体がウイルスや細菌などの病原体をやっつけやすい,免疫学的に有利な状況にあるのです!
平熱と発熱の定義
体温は,朝が最も低く,夕方から夜にかけて上がってきます。朝と夕方では,平熱にも差があることを覚えておきましょう。
年齢の低いこどもほど,眠かったり,満腹だったり,泣いたり暴れたりで体温は上がります。さらに部屋や外気の温度が高いと,小さなこどもほど影響を受けて体温は上がります。
平熱は次のように定義するとよいでしょう。いつも使う体温計で,健康であると思われるときの安静時の体温を,時刻・計測部位を一定にして2〜3回測定し,それをその人の‘平熱’とするのです。
のちに同じように計測した体温が‘平熱’より約1℃以上高ければ,熱と考えてよいでしょう。
体温測定の方法
内臓など体の内部の温度が計測できれば理想的ですが困難なため,実際には体の外側の温度が計測されます。計測部位としては腋下(わきの下),口腔内,直腸が一般的ですが,日本では習慣的に腋下温の測定が行われています。
体温計も水銀計はほとんど見かけなくなりました。手軽に扱え計測時間も短い電子体温計が主流です。ただ,確かに電子体温計は便利なのですが予測式であるため,計測時間が短い電子体温計ほど,不正確な値が表示される可能性があります。正常な体温のこどもに‘微熱さわぎ’や‘低体温さわぎ’を起こす一因となっています。
電子体温計で正確な体温を測るコツは,ピピッという電子音が鳴っても数分間そのままわきの下にはさみ続けることです。かなり正確な値に近づきます。
そこまでは忙しくて無理という方は,電子体温計には多少の誤差があるのだということを承知しておいて,計測値を過信しないことです。顔色,食欲,元気さなどから総合的に,熱がありそうか判断してください。
発熱時に行いたいこと
熱の上がりはじめは寒気を伴い,こどもの機嫌も悪くなります。寒がって震えているようなら,一時的に体や手足を暖めてもよいでしょう。しかし,熱が上がりきった時点からは,熱を放散させる必要があります。
暑くない部屋で薄着にして,水分の補給を心がけましょう。そして
背中,腋下,そけい部(大腿のつけ根)などをゆっくりと冷やします。具体的には,アイスノンや氷まくらをタオルでくるんだものを背負わせます。小さな氷のうを作り,両肩からぶら下げて腋下を冷やすのもよい方法です。また,
スポンジング法といって,30℃程度のぬるま湯でゆるくしぼった手ぬぐいで体の腹面と背面を交互に10〜20分間くり返して拭き,熱を放散させる方法も有効です。
これらの方法をうまく使うと,体温はゆっくりと低下してきます。手はかかりますが,最も安全な解熱方法です。
こどもは熱に強い
大人になるほど,人間は熱に弱くなります。37℃くらいでも,大人は頭痛・関節痛・だるさなどで辛く,夜も眠れなくなるため,短時間でも楽になって睡眠をとっていただくという目的で,解熱剤を処方する場合が多くなります。
一方,
こどもは熱にとても強く,小さなこどもほど解熱剤は不要です。39℃台位なら,笑い,普通に遊び,しっかり水分が摂れる場合がしばしばです。
元気の残っているこどもに,免疫力を低下させる解熱剤をわざわざ使う必要はありません。病気が治るのを遅らせるだけです。
当院では最近8年間で,6歳以下のお子さんに解熱剤を処方したことはありません。
家族の皆さんも熱についてよく理解してくださっているので,助かっています。
大きくなってしばらくぶりに受診したような場合でも,‘そろそろ熱が辛くなる年齢ですから解熱剤を出しましょうか?’とお聞きすると,
‘今まで使ったことがないし,なくても大丈夫です。’という方が多く,たいしたものだなあと私の方が感心させられています。
解熱剤と熱性けいれんについて
熱性けいれんは1〜3歳を中心(ほとんどが6歳以下の小児)にみられる,発熱が誘因で起こる全身性のけいれんです。
解熱剤は一見便利なものに思われますが,解熱剤で体温が下がると免疫力も低下するため,解熱剤を使用した分だけ病気の治りが遅れます。また,数時間で解熱剤の効果がなくなると体温は再び急激に上昇します。
熱性けいれんを起こす場合,熱の上がり始めが最も危険性が高いため,解熱剤の使用は熱性けいれんを引き起こす1つの要因となる可能性があり,年齢の小さなこどもほど,解熱剤の使用には慎重であるべきです。
解熱剤を積極的に使用しても熱性けいれんは減らないことが,研究により判明しています。むしろ増える危険性があります。
熱性けいれんの予防には,ディアゼパム(ダイアップ座薬・セルシンなど)が有効です。熱性けいれんを起こしやすい小児が発熱した場合,あわてて解熱剤を使って体温を下げるのではなく,まず早めにけいれん予防薬を使用し,その上で必要に応じ,先に述べたような熱を放散させる方法で解熱を計るべきです。
医療機関を受診するタイミング
熱は朝から午前中は下がり,午後から夕方,夜にかけて上がる傾向にあります。したがって熱は夜出ることが多いのですが,こどもが夜間に高熱を出すと,ほとんどの親は心配します。あわてて救急病院を受診したくなる気持ちもわかります。
しかし覚えておいて欲しいのは,
熱だけでは救急病院を受診する必要はない(受診してはいけない)ということです。
熱は,体に何らかの異常が起こっているという大切なサインです。しかし今まで述べてきたように,熱は体の免疫力を上げてウイルスや細菌をやっつけるための防御機構でもあります。
わざわざ免疫力を落とす解熱剤をもらうために夜中にあわてて救急病院を受診するのは,全く無意味です。
最近,小児科医が足りないと報道されていますが,小児科医の激務が大きな原因の1つです。特に,
救急外来を受診する必要のない患者の受診があまりにも多く,勤務小児科医をいたずらに疲労させています。
夜中に本当にあわてなくてはいけないのは,@意識状態が明らかに低下している。 外からの刺激に反応しない。 Aけいれんが10〜20分以上止まらない。B嘔吐し続けぐったりしている。 C呼吸困難を起こしている場合などです。
たとえ41℃の熱があっても,意識がはっきりしていて水分が少しずつ摂れていれば,夜中にあわてて救急病院に行く必要はありません。翌日にかかりつけ医を受診してください。
熱の原因として多いのは急性咽頭炎ですが,時々
溶連菌感染症や尿路感染症,川崎病など絶対に見逃してはいけない疾患もあります。いったん昼間熱が下がっても,夜にまた上がることも多いので,
夜中にあわてる必要はありませんが,翌日解熱していても必ず一度は受診するようにしてください。
その方がお互いに安心です。
よくある質問に対するQ&A
A. 40℃台の熱が続いています。脳がおかしくならないか心配なのですが。
一般に,体温が41.7℃を超えなければ発熱による脳あるいは他の器官への障害はないとされています。通常はここまで体温が上昇することはめったになく,40℃台なら全く心配ありません。
A. 熱が出たときには,部屋を暖めたり服をたくさん着せたりして汗をかかせろと聞きますが本当ですか?
熱の上がり始めで寒がっている場合は一時的に体を温めてもよいですが,熱が上がりきったら今度は熱を放散させる必要があります。ここで周囲から熱を加えることは,さらに体温を上昇させ全身状態を悪化させる危険性があります。ぜひそのようなことは慎んでください。
A. 同居している祖父や祖母は,鼻水や咳が出るときには,こども(孫)を風呂に入れてはいけないと言います。 熱のあるときも同じです。 そのため1週間くらい入浴できないこともあるのですが。
以前からお話ししているように,風邪をひくのは人間,特にこどもにとっては宿命です。風邪をひかせてはいけないと考えず,風邪をひいても悪化させなければよいと考えるべきです。
風邪のウイルスは約200種類あり,初めて出会うウイルスには人間は必ず感染することになっているのですから,生後数年しかたっていないこどもたちは,しょっちゅう風邪をひいて鼻水を垂らしていると言っても過言ではありません。鼻水や咳を理由に入浴が禁止されてしまうと,こどもたちは風呂に入れなくなってしまいます。
したがって,鼻水や咳,発熱がみられていても,元気が残っていれば,原則として入浴させるべきです。昔と違い,現代の風呂はとても清潔で気密性も高いので,湯冷めをして風邪が悪化する心配もまずありません。
また,特に冬は皮膚が乾燥して,アトピ−性皮膚炎の小児などはただでさえ皮膚症状が悪化しやすい傾向にあります。ここで何日も入浴できないとなると,皮膚に存在し,アトピ−性皮膚炎を悪化させる原因の1つである黄色ブドウ球菌が増殖し,皮膚炎はさらに悪化します。皮膚の清潔を保ち,皮膚に水分を供給するという意味においても,入浴は非常に重要です。
以上の理由から,風邪をひいていても本当に状態の悪いとき以外は,仮に熱が40℃以上あっても,入浴は積極的に考えるべきです。ただし,短時間にさっと行ってください。出た後にすぐ乾かせれば,洗髪もかまいません。
A. 熱射病に解熱剤は有効ですか?
熱射病や甲状腺機能亢進症などの代謝異常に基づく発熱には解熱剤は無効です。 熱射病の場合はすみやかに体を冷やす,輸液を行うなどの処置が必要です。
忘れてはいけないこと
3ヶ月未満の赤ちゃんの発熱は,要注意です。
風邪かなと思って油断していると,髄膜炎や肺炎,敗血症などを合併してあっという間に全身状態が悪化し,不幸な転帰をとることがあります。
特に,発熱があって@哺乳力が明らかに悪くぐったりしている,A嘔吐が続く,B顔や体全体の色が悪い,などの症状が見られたら,急いで小児科専門医を受診してください。
@〜Bのような症状がなくても,3ヶ月未満の乳児に発熱がみられた場合は,躊躇することなく小児科専門医を受診してください。